NAO企画展’90ー③ 伊藤洋一郎ドローイング展
4月5日-10日
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今展の伊藤作品はコンテと鉛筆を駆使し、紙の微妙な凸凹と絡み合わせながら、じつにしっとりとした雰囲気のあるマチエール(絵肌)を醸し出している。
徳島在住の伊藤さんは我が国美術家がとかく迂回して通って来た抽象絵画に、ひつこく取り組んでいる数少ない作家だ。
20世紀前半、ヨーロッパ美術は抽象を発見し、次代各分野の美術の基礎を作った。彼らは普遍性という大目的のために感情の移入を極力排除し、基本色彩と基本形のみで人々の純粋感覚に訴えようとした。彼らの作品がハードになり、主張がはっきりと全面に押し出されて来るのは必然だろう。その背景には大平原民族特有のはっきりした意思表示の伝統に基づくものがあった。
伊藤作品の形はハードでなく、柔らかく弾力があり、形に沿って意識が膨らむ。しかもそのマチエールは意識を奥へ吸い込ませる。それはヨーロッパ抽象と全く逆の方向をたどっている。しかし伊藤作品は感覚に快く響くが文学的な説明はしていない。伊藤さんはヨーロッパ作家が制作不可能な我が国特有の森林思想に基づく抽象絵画が実現させている。
Take off 31 1990.3.15 ニシウチ・アート・オフィス 翠峰画廊