藍 染の展覧会をしていると、若い女性からお子様の剣道着が色落ちがするのでどうしたらいいでしょうか?と訊ねられます。色止めの仕方を聞かれているわけですが、私が染めている藍では色止めは一切していませんし、色移りはありません。しかしこの説明をする場合、明治より藍染の染料になる物質が変化することで「藍染」が存続していることを、知識として共有していただかないと何も会話が成立しません。多くの人が剣道着や法被など古くからある衣装の紺色は藍で染めたものと理解し、すでに知っている情報と結びつけ天然染料だと思われます。あるいは商品の説明でそう思い込まされているので、藍染に使われる染料の理解ができていません。1~3万円に満たない剣道着が、複雑な工程をもつ希少な天然染料を使った衣料だと考える人がいることに、最初は驚いたものです。そしてこれらの「藍染」の認識が相当浸透していることには、戸惑いを隠せませんでした。
時が経った今でもインターネットの剣道衣販売サイトを見ると「藍染」を掲げて、商品の説明に「色落ちを軽減するため化学染料を使用しています」「綿100% 化学染料」、洗濯方法は「必ず手洗いで洗ってください。洗剤はお使いいただけません。他の衣類に色移りしますので、単体で洗ってください。」 そして一番高い価格の商品では「綿100% 武州正藍染」の明記があり色落ちはあまり無いと書かれていますが、洗濯方法は上記と同じです。他にも「洗い水にお酢を入れる」や「洗剤や洗濯機の使用はしないように」とも書かれ、その理由として「化学物質の含まれる洗剤は染料である藍を分解してしまうからです。」と説明しています。なかには「藍を使用していませんのでお肌の弱い方も安心してお使いいただけます」との説明もあります。
ここで使われている「藍」は私が説明している藍とは全く違う物質の「藍」です。
「藍」といわれる染料のほとんどが化学染料であり、そのことを理解している人の割合はわかりませんが、無理のないことだと思います。それ程天然染料の「藍」で染めたものの実態は遠い過去のことで、見る機会の少ないものだからです。それでも剣道着などに藍が使われていると表記され、「汗による酸化に強く、布地を丈夫にして、防虫機能、抗菌作用があること」と使用目的の理由にしています。これらの機能は天然染料である「藍」の特徴であって、決して現在剣道着などを染めている化学染料の「藍」の特徴ではありません。根拠ある内容で実際の商品の魅力を伝えて欲しいと思います。