伊藤洋一郎の理《RI》絵画⇔写真vol.011

『自由工房』を応援してくださったコンテンポラリー・マガジン『The Earth』を発行していた忽那修徳氏から巻頭の「ジ・アース/トーク」を依頼され執筆しました。忽那氏の愛媛での取組みに感心し、出会いを大変喜んでいました。

 

テーマ 《最近出会った意外に面白かった本は?》 

 数年前に蔵書を売りはらってから、以来本を買うという習慣もなくしてしまった。安価でかさばらないという理由で、ごくたまに文庫本を探すことはあるが、読書のすべては市立図書館のご厄介になっている。図書館の在庫のなかから選ぶことについて、ときに欲求不満がないでもないが、それでも、偏っている自分の嗜好と違ったところで、意外と面白い本にぶつかることもあって、この味もまた捨て難いものだ。読書の嗜好が身辺の変化に左右されるのは当然のことだろうが、つい先日終った市長選挙に深くかかわっていたこともあって、そうなると現金なもので、ふだんより政治色の濃い本を集中的に読んでいたようだ。一月末から二月にかけて借り出したものをあげてみると、「コモン・センス」トーマス・ペイン(これは友人から借りたもの)。「死の途上にて」ホセ・ルイス・マルティン・ビヒル。「ソルジェニーツィンの眼」木村浩。「タイタニックに何かが」R・J・サーリング。「芸術と政治をめぐる対話」ミヒャエル・エンデ ー ヨーゼフ・ボイス。「雪が燃えるように」レジス・ドブレ。「蘇れ、わがロシアよ」ソルジェニーツィン。他に、カルロス・フェンテス、ファン・ルルフォといったところだが、ラテン・アメリカ系が多いのは単に結果でしかない。

 選ぶ指向がはっきりしていたから、思いがけずといった感じは少ないが、なかで「芸術と政治をめぐる対話」は意表をついた組合せが面白くて、借り出し期間を延長して四週間手元にあった。過激で破天荒な現代芸術の旗手ボイスと、いささか保守的で誠実・慎重な人柄の作家エンデとの対話を記録したものだが、精神の自由について、あるいは、芸術と政治について語り合う二人の、まったくかみ合わない、それでいてあくまでも真摯な発言がスリリングでもあり、見事だった。

 「蘇れ、わがロシアよ」は、現代ロシア文学を代表する作家ソルジェニーツィンが、祖国ロシア復興の熱い想いをこめた論文集だが、文学というものの存在理由と、作家の姿勢について、あらためて考えさせられる一冊でもある。

1993年3月25日  The Earth ジ・アースVOL.26 ジ・アース/トーク